本『笑止 SFバカ本シュール集』その12007年07月01日 20:19

編者:岬 兄悟・大原 まり子
出版社:小学館(小学館文庫)

何年か前に出版されたSFバカ本という、SF短編集からいくつかの話をピックアップしたものです。
そうとは知らずにSFバカ本の新刊かと思って買ったんで、読んだことある話が入ってました。
旧SFバカ本を全部読んでいたわけじゃないんで、知らない話もあったのが幸いでした。

「薄皮一枚」岬 兄悟
目が覚めたら、いろんなものの薄皮一枚下に入り込んでしまった男の話。
最初は布団、シーツ、ベッドのマットレス、このぐらいはまだ良かったんですが、カーペット、床と続いたあたりから、薄皮一枚の入り込む場所がエスカレートしていきます。
電車や女子高、会社にTV局、窓ガラス。
しかも、男は寝ているときの姿のまんま、つまり全裸。加えて、人によっては男の姿が見えるらしい。
そして男は薄皮一枚下を移動していると、性的エクスタシーを感じて、イッた瞬間にワープしてしまうのです。

下品な設定の小説が好きなら、大爆笑もんの話です。
いろんな場所の薄皮一枚下に入り込めるだけでも、楽しいのに、そこにエクスタシーを感じてしまう。


「エステバカ一代」高瀬 美穂
カバのように太った女性が、好きな男性に告白・ふられたのを機会に、山奥にある全寮制のエステクラブに入会します。
そこで彼女は、美しさの頂点を極めるのです。

痩せるという多くの人が持つ願望をネタにした名作です。


「お熱い本はお好き?」館 淳一
あっけらかんとした下品な話です。それでいて、SF。
地球上には生き残っているものとはいないと思われたのですが、コールドスリープから一人の生存者が発見されます。
見つかったのは、男性器と女性器を完全な形で備えた両性具有者。しかも、その身体にはボディにフィットした薄い服のように見える刺青がしてありました。
しかも、その刺青は極少の文字で書かれたエロ小説・・・
そして両性具有者は、そっちの方も開発済み。

エロい話なんだけど、エロが足りないSF小説です。
エロでもSFでもない、まさにバカ本な話です。


「かにくい」佐藤 哲也
なんともかんともスゴいセンスの話です。
むかし、自分に子供に悪魔と名付けようとして騒ぎがありましたが、この話には左端(サタン)という人間が登場します。
彼は悪い人間では無いのですが、ある性質があり、ある程度でやめときゃいいのに極端に突っ走ってしまうのです。
良い子になろうと思えば成績優秀すぎて不気味な子供だし、悪くなると当然、親や教師は心配する。じゃあ中庸がいいだろうと、平凡を目指すと、テストはすべて平均点。
そんな彼と大学で久々に再会した、私がカニを食いに行きます。

普通じゃない人を、すごく上手く書いてて、独特の世界を形成してます。
引き込まれたら最後、普通の人間には戻れないような雰囲気があります。

本『笑止 SFバカ本シュール集』その22007年07月02日 00:04

編者:岬 兄悟・大原 まり子
出版社:小学館(小学館文庫)

「蛇腹と電気のダンス」北野 勇作
使えそうな粗大ゴミを拾ってくるのが、大好きなOLが登場します。
関西弁の会話が気持ちいい、テンポが良くて、テンションの高い話です。
勢いがありすぎて、読んでいるこっちの脳みそまで、どうにかなっちゃいそうです。
出社中に見つけた粗大ゴミをGETすべく、零細企業の社長を強引に説得して、会社の台車を借りて、台車をスケボーのように乗りこなすシーンは痛快です。
誰か映像化してくんないかな~。


「スーパー・リーマン」大原 まり子
ある編集者と作家の話です。
小説に編集者や作家が出てくると、真実が混ざっているのではないかと、ついついかんぐってしまいませんか?
どの辺が真実なのか?、想像してしまう話です。


「ノストラダムス病原体」梶尾 真治
アンドロメダ病原体ってのが、ありましたが(内容は知りません)、そのパロディと思える、ノストラダムス病原体です。
宇宙から飛来した病原体が日本中に感染拡大していくパニック小説?です。
その病原体に感染すると、数十秒から数分ののちに、大量の下痢便とゲロをまき散らしながら脱水して死んでいくのです。
しかも、感染力は強力。
誰もそんな死に方したくありません。でもご安心を、とうとう病原体の活動を弱体化させる方法が見つかったのです。
その方法は簡単、酒を飲むのです。
さあ、みんなそろって酒を飲みましょう。
まったく、なんちゅう話だか。酒を飲んだあとにすばらしいオチが待ってます。


「ハッチアウト」斎藤 綾子
今度は幽体離脱してしまう女性の話です。もう、なんでもありって感じですね。
なんと、幽体離脱すると、その身体に誰かが勝手に入り込んでしまうのです。しかも、こっそりと。

ほかの話に比べるとバカっぷりが少なくて、SFというよりはホラーって感じです。特に終わり方はホラー小説風です。


「片頭痛の恋」矢崎 存美
片頭痛に悩まされていた男性が、片頭痛の起こる直前にある兆候を見るようになりました。
その兆候とは女性なのです。
頭痛が起こる前に、ちらりと視界に入るナゾの女性。
彼女が実在するのかどうか分かりませんが、その女性に恋をしてしまったのです。
頭痛はイヤだけど、女性の姿を見られるなら、頭痛すらも待ち遠しい。
この恋は実るんでしょうか?

映画『プレステージ』2007年07月02日 21:31

同じ釜の飯を喰ったマジシャン二人が、マジックを使って相手を陥れようとする映画です。

私は、原作を読んでいたんで、あまり苦もなく理解できたんですが、原作を読んでいないと、なにが起こったの?ってなりそうな気がします。
でも、内容を知っていただけに、「騙された!」って感覚がなかったのが残念。


以下、分からんかったって人の為に、ネタバレしまくりです。
1回しか見ていませんが、だいたい合ってると思います。
ただし、映画は時制が連続してないんで、もうちょっと分かりにくいけど。

二人のマジシャンは、ロバート・アンジャーと、アルフレッド・ボーデンと言います。
それぞれ、二人は最初っから秘密を抱えています。
ロバート・アンジャーは、コールド・ロウ卿という貴族の仮の姿で、家を出て趣味でマジックを勉強しています。
アルフレッド・ボーデンは、実は双子。しかも、それを周囲の人間全員に隠しています。

二人が修行時代に、ロバートの妻ジュリアが二人の師匠のアシスタントとして舞台に立っていました。
ジュリアが水槽からの脱出を演じる時に、二人が観客の振りをして、ジュリアの手足をロープで結びます。この時に、ボーデンが手に結ぶロープをほどけにくくしてしまい、脱出マジックは失敗。ジュリアは故人となってしまいます。
ジュリアの葬儀の時に、ロバートはボーデンにどんな結び方をしたのか問い詰めるのですが、ボーデンは覚えていないとしか言いません。
それもそのはず、ボーデンは双子で、葬儀に来たのはロープを結んだボーデンとは違うからです。
こうして、二人の確執は始まったのです。

ちなみに原作では、ボーデンは双子ではなく、ドッペルゲンガーだったように
読めたんだけど、私の読解力が足りなかったのか?

二人は、マジシャンとして独立します。
まず、先手を打ったのは妻を殺されたロバートです。
ボーデンの銃弾つかみというマジックを邪魔して、ボーデンの指を欠損させます。
当然、しばらくマジックは休まなきゃいけません。
しかも、ボーデンは誰にも公言していない双子で、二人はボーデンとその友人(マネージャ?)ファロンを1日毎に交代していました。
1日おきに、ボーデンの指が生えたり欠損したりすると、明らかにおかしいのがばれます。
そこでボーデン達は、正常な方の指を自ら切り落とすのです。

ボーデンは指の怪我が治ると、瞬間移動というマジックを始めて喝采を浴びるようになります。
この瞬間移動は双子だからこそできるトリックなわけです。双子であることを
隠し通すためにも、指を断ったのです。

ボーデンの成功が気に食わないロバート(舞台名はダントン)は、自分も瞬間移動マジックを真似します。
しかし、ロバートの双子の兄弟はいないので、替え玉を使って瞬間移動したかのように見せかけるのです。
演出の上手さで、ロバートは盛り返したのですが、今度はボーデンの仕掛けにはまり、足を怪我し、替え玉もボーデンにそそのかされて使えなくなってしまいました。

もうひと悶着あるけど、省略。

どうしても、ボーデンのやっている瞬間移動の謎を知りたいロバートはアシスタントのオリビアをスパイとしてボーデンに送り込みます。
そして、オリビアはボーデンの日誌を盗みました。
しかし、日誌は暗号で書かれており、そのままでは読めません。
ロバートがボーデンから強引に聞き出した暗号のキーワードと、瞬間移動の
答えは「テスラ」でした。
実は、ボーデンの瞬間移動は双子トリックなので、テスラってのはまったくのウソです。それどころか、日誌そのものがロバートを騙すために周到に用意したものだったのです。
そうとは知らずに、ロバートは日誌を解読しながらテスラへ会う為、旅に出たのです。

テスラってのは、あの天才とも奇才とも呼ばれるニコラ・テスラです。
しかも、テスラ役がデビッド・ボウイだ!

ロバートは、テスラに頼み込んで、瞬間移動できる機械を作ってもらいます。
しかし、できあがったのは、電気が放電するだけの大きなガラクタ。
シルクハットをいくら瞬間移動させようとしても、ピクリとも動きません。
あきらめて帰りかけたときに、外にたくさんのシルクハットが落ちていました。
テスラは、瞬間移動させる機械ではなく、物体(生物)をコピーする機械を作ってしまったのです。

これを使えば、完璧な瞬間移動のマジック(科学)が可能です。
ただし、問題は自分がもう一人増えてしまうことです。
そこで、ロバートは瞬間移動の際に落とし戸の下に、脱出マジックで使う水槽を置き、瞬間移動の副作用で増えた自分を溺れ死にさせることにしたのです。

この溺れ死にさせるというのは、ボーデンをはめる為のワナにもなっていました。
いずれ、瞬間移動のトリックが知りたくて、舞台裏を覗きにボーデンが来ることを見越していたのです。
案の定、ボーデンはマジックの最中にやってきました。
そこでボーデンが見たのは、水槽の中で助けを求めて苦しんでいるロバート
でした。
ビックリしながらも助けようとしたのですが、救助に失敗して、ボーデンはライバルを殺人した罪で有罪となってしまうのです。

公にはロバートは死んでしまうのですが、瞬間移動した時に生き残った方は
ボーデンが有罪になったのを確認して、本来の身分であるコールド・ロウ卿へと戻りました。
そして、コールド・ロウ卿は、ロバートのマジック用具一式と、ボーデンの一人娘を養子として迎い入れるのです。

しかし、そうは問屋がおろしません。
ロバートは知りませんが、ボーデンは双子なのです。
ボーデンAは絞首刑にされてしまうのですが、ボーデンBはファロンとして生きています。
それを知らないロバートはボーデンBに殺されてしまうのです。

本『精霊の守り人』2007年07月03日 20:52

作者:上橋 菜穂子
出版社:株式会社新潮社(新潮文庫)

やられた、予想以上にレベルの高いファンタジーでした。
一般的にファンタジーっていうと、剣と魔法とモンスターが出てくる冒険ものなんですが、この本はそれらとは別次元の高みを行っています。

そこいらの形だけファンタジーとは、深みというか世界観が違います。


女だてらに用心棒をやっている短槍使いのバルサは、国の第二皇子チャグムを偶然救ったことから、国の運命を左右する問題に巻き込まれます。
チャグムには水妖が取りついているので、暗殺しようという動きがあり、それを察したチャグムの母はバルサに、チャグムと共に逃げるように頼んだのです。

しかし、チャグムに宿っていたのは、悪い水妖ではなく、新ヨゴ皇国に雨の恵みを与える精霊の卵だったのです。
かろうじて伝わる昔の伝承や、祭りの儀式から、政治的理由により歴史の表舞台から消された真実が少しずつ明らかになっていきます。


この口伝で残るむかしばなしや、祭りの儀式が、物語に重厚感を与えています。
当然、単にそういう要素を組み入れればいいってもんではなく、その使い方がまた絶妙です。
加えて、読みやすくてテンポの展開に、分かり易い描写。すばらしいとしか言いようがありません。
登場人物も、分かり易い派手さはないですが、それぞれしっかり自己主張してるし。
ファンタジー小説は世界観を示すために、どうしても説明くさい文章になりがちですが、そうならないように、上手くまとまっています。
全体的に、恐ろしいぐらいに、隙が無いように感じます。
おそらくは私なんかよりは、プロの作家が読んだ方が、書き方(読ませ方)の上手さにうなってしまうんじゃないかと思います。

文庫化される前は、児童書だったらしいので、読みやすいのも納得がいきます。
でも、大人が読んでもなんら問題のない話です。

本『敵は海賊・正義の眼』2007年07月04日 22:09

作者:神林 長平
出版社:株式会社早川書房(ハヤカワ文庫JA)

久々に出ました敵は海賊シリーズです。

ちょっと残念なことに、ラテルとラジェンドラとアプロのやりとりが思ったよりも少ない。
そもそも、あの一人と一台と一匹の登場シーンが少ないぞ。
なんだか敵は海賊のサイドストーリーって感じがします。


今回はヨウメイが自ら気に食わない自然環境保護の活動家モーチャイを完膚無きまで叩きつぶそうとして、そこへ海賊課が巻き込まれる展開となっています。

一番面白いと思ったのは、冒頭のヨウメイとモーチャイのやりとりです。
そこでは観念を二人に語らせる言葉遊びと、思想の相違によるコミュニケーションの不成立が同居した不思議な会話が流れています。
普通なら破綻してしまい小説として成り立たないような会話を、いきなり最初にもってくるあたりは、さすがです。


前半部は、タイタンのメカルーク市警のネルバル警部と、海賊課志願のエリート実習生サティの二人が、モーチャイが起こした海賊殺人事件を捜査するのがメインとなるので、例の3人組?はあまり登場しません。

なので、3人組のハチャメチャっぷりを期待していると、ちょっと肩すかしをされた気分になります。

登場しないといえば、ジュビリーもオールド・カルマも出てきません。
困ったことにバー軍神のシーンがないのです。

そんなわけで、ちょっと敵は海賊色の薄い、敵は海賊です。